何度染めても、結局1か月もすればはっきりわかるほど伸びてしまう白髪。
染めた色が黒ければ黒いほど、新しく伸びた白髪部分との差がはっきりわかってしまいます。
それを解消するために、地毛のほうを白く脱色して色味を合わせてしまえばいいのでは、と考える人もいるようです。
しかし、そううまくいくのでしょうか。
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脱色で白髪を目立たなくできる?
原理からいえば、確かに地毛の黒髪を白髪に近づければ、白髪は目立たなくなります。
しかもちょっと外国人風カラーで、とてもスタイリッシュです。
しかし、その状態が永久に続く訳ではありません。
「脱色すれば白髪染めの手間を減らせる」という誤解
確かに、脱色すればその部分は二度と元の色には戻りません。
脱色というのは過酸化水素などのブリーチ剤によって髪の色を決めるメラニン色素を破壊してしまうことで、その部分にはメラニン色素がなくなってしまいます。
一度失われたメラニン色素は二度と作られないため、脱色すれば必ず髪の色は薄くなるのです。
しかし、すでにほとんど白髪でほんの少しの黒髪を脱色するならまだしも、黒髪もたくさん残っている状態で脱色するとどうなるでしょうか。
その後伸びてくる髪はまた黒髪なので、白髪を染めた時と逆の現象、つまり根元だけ黒く、それ以外は白髪という逆プリン状態になるので、やはり非常に目立ってしまいますよね。
結局、白髪染めならぬ「黒髪脱色」を月1回はしなくてはならなくなり、全く手間は減らせないのです。
脱色による髪や頭皮へのダメージは避けられない
タオルなどを漂白した経験のある方ならご存知だと思いますが、漂白剤というのはかなり刺激があるものです。
手がカサカサになってしまったりかゆみや炎症を起こしてしまったりします。
濃度が高くなると触れた部分が火傷状態になり、壊死して白くなってしまうこともあります。
それが髪と頭皮に起こるのですから、髪や頭皮の水分が失われたり皮膚の奥の細胞まで死んでしまったりすることもあり、非常に大きなダメージとなるのです。
それでも若いうちは皮膚や細胞の新陳代謝が早いため回復しやすいのですが、加齢とともに新陳代謝の速度が遅くなり、ダメージが回復しないままになってしまうことが多いのです。
目に見える形ではっきりわかるのが毛先です。
毛先は何度もブリーチされることになるため、色味も他の部分より明るく、段々金髪に近い髪色になってしまいます。
しかも、それがキレイな髪ならまだしも乾燥して枝毛や切れ毛、ビビリ毛などになってしまうため、非常にみすぼらしい感じを与えてしまうのです。
また、髪の毛と頭皮は同じケラチンというタンパク質でできているので、髪の毛に隠れていても同様のことが起こっていると考えましょう。
脱色(ブリーチ)の仕組み
過酸化水素につけておけば白くなる、と簡単に考えがちですが、実は複雑な作用によって脱色されているのです。
ここでは、簡単に脱色の仕組みをご説明しましょう。
脱色によって地毛のカラーが抜ける仕組み
健康な髪の表面にはキューティクルといううろこ状の硬いタンパク質組織があり、これが髪の中のコルテックスという部分を保護しています。
コルテックス内には水分、タンパク質、脂質、メラニン色素などがあります。
キューティクルがしっかり閉じていると、過酸化水素(ブリーチ剤)がコルテックス内に浸透してメラニン色素を破壊することができません。
そのためにアルカリ剤を使い、閉じているキューティクルのうろこをわざと開かせます。
するとできた隙間から過酸化水素が浸透します。
過酸化水素はアルカリ剤によって分解されて酸素を発生し、この酸素がメラニン色素を破壊し、脱色するのです。
なお、過酸化水素はおしゃれ染めや白髪染めなど二剤式のヘアカラーリング剤にも必ず含まれています。
これは、地毛の色を多少脱色することでカラー剤の発色が良くなり、全体を均一な色味に揃えてくれるからです。
脱色(ブリーチ)に伴うリスク
漂白剤を使用すると指がゴワゴワになることからもわかるように、脱色には必ずリスクが伴います。
髪にはもちろん頭皮にも大きなダメージを与え、白髪や抜け毛を増やす原因にもなるのです。
アルカリ剤で髪がボロボロになる
過酸化水素を浸透させるために、アルカリ剤でキューティクルを開くというお話をしました。
問題は、アルカリ剤は一度髪に浸透してしまうと数週間抜けないため、その間キューティクルが開きっぱなしになることです。
開いたキューティクルは、ブラッシングやドライヤーなどの刺激で簡単に剥がれてしまいます。
すると中のコルテックスがむき出しの状態になり、コルテックスの成分である水分やタンパク質、脂質が簡単に流出してしまいます。
さらに、キューティクルは濡れると開くという特性があるため、残っているキューティクルもシャンプー時に開いてしまい、コルテックス内の成分のほとんどがなくなってしまい、髪がパサパサごわごわになってしまうのです。
しかも、キューティクルの表面にはMEAというミンクの毛にも含まれている脂質がありますが、これもアルカリ剤やブリーチ剤で失われてしまうため、ツヤもなくなってしまいます。
MEAは一度のカラーリングで80%損失するといわれ、再生することはありません。
なお、ホームカラーではなく美容院でブリーチやおしゃれ染め、白髪染めをした場合は、最後にバッファーという薬剤で残留アルカリを除去することができます。
しかし実際には、経費と時間削減のためにこの手順を省いている美容院が多いといわれています。
美容院でカラー毛やブリーチ毛にしたのにホームカラーとダメージ具合が変わらないという場合は、バッファー剤を使用してくれていないと考えましょう。
過酸化水素の蓄積によって更に白髪が増える
2009年、FASEB JOURNALというアメリカのバイオ科学情報誌に、白髪の原因に関する新理論が掲載されました。
これは英国のブラッドフォード大学による研究発表で、過酸化水素の蓄積によって白髪が増えるというものでした。
それによると、髪の毛を作る毛包(毛穴の奥)では常に過酸化水素が作られていますが、若いうちは分解酵素によって分解されています。
しかし加齢とともに生成される過酸化水素が増え、しかも分解酵素が減ってきます。
過酸化水素は分解されないとチロシナーゼというメラニン色素を生成するために必要な酵素を酸化させてしまい、メラニン色素が作られなくなってしまうのです。
ただでさえそのような状態のところに、ブリーチ剤の過酸化水素が毛穴から毛包に入り込むことでさらにチロシナーゼ酵素が破壊されてしまいます。
その結果、髪に色がつかなくなり白髪のままで生えてきてしまうのです。
髪や頭皮への深刻なダメージは薄毛の原因に
さらに、過酸化水素は頭皮にもダメージを与えます。
過酸化水素は約3%の水溶液の場合はオキシドールと呼ばれ、細菌の除去や服の漂白などに使用される安全な成分です。
しかし6%を超える濃度になると劇物指定され、皮膚に触れると部分やけどになり炎症を起こしたり、皮膚を壊死させて白くなったりしてしまいます。
一般に市販のブリーチ剤は過酸化水素の濃度が6%ギリギリだといわれ、頭皮に非常に強いダメージを与えます。
また、美容院では2.4~3%、4.5~5%(メーカーによって濃度の差あり)、6%の3種類を使い分けています。
利用者のことを考えている美容師であれば、ダメージの大きい毛先は2.4~3%、根元に近い健康な部分は6%など、細かく調整してくれます。
しかし、これも美容院や担当美容師によって違い、安価なところほど濃度の高いものを全体に使う傾向があるようです。
ブリーチ剤が毛包を通して毛根部に届いてしまうと、毛乳頭や毛母細胞がダメージを受けます。
毛乳頭は毛細血管から栄養素や酸素を受け取り、それを髪の素となる毛母細胞に供給し、毛母細胞の細胞分裂が活発になることで健康な髪が成長していくのです。
しかし濃度の高い過酸化水素によって細胞が変質すると、その部分の髪が抜けてしまったり、髪が細くなったり、二度と生えてこなくなったりすることがあるのです。
一度のブリーチでは黒髪は白くならない
もう一つ問題なのが、黒髪を白くするのは思いのほか困難だということです。
髪の色を決めるメラニン色素にはユーメラニンという黒褐色系のメラニンと、フェオメラニンという黄~赤色系のメラニンの2種類あり、これの割合で髪色が決まります。
ブリーチ毛にする場合、まずユーメラニンが破壊されて黒→茶に変化し、その後フェオメラニンが壊されて茶→オレンジ→黄へと変化します。
ところが、フェオメラニンは破壊されにくい特性があります。
黒髪を白髪が目立たなくなるまで脱色するためには何度もブリーチを繰り返すか、非常に強い薬剤を使用しなければなりません。
ちょっとニュアンスをつける程度の外国人風カラーなら1回で済みますが、白髪が多いから金髪やシルバーに近づけたいという場合は、髪質によっては5~6回かかる人もいます。
そのため、髪も頭皮も非常にダメージを受けてしまうのです。
そして、そこまで傷んでしまった髪は、たとえ美容の専門家がどれだけ高いテクニックを持っていても直すことはできません。
さらに自宅でのケアとなると、美髪を保つのは不可能なのです。
メラニン色素がなくなるとガンになる?
メラニン色素には紫外線を吸収する働きがあり、頭皮や細胞を守ってくれています。
黒いほど紫外線を吸収する働きが強いことから、ユーメラニンが多いほうが紫外線防御作用が強いと考えられます。
ところが脱色してユーメラニンを破壊してしまうと、頭皮が直接紫外線にさらされ、活性酸素を生み出し、細胞を変質させてしまうのです。
紫外線のうちUVBは細胞内のDNAを直接攻撃し、傷つけてしまいます。
また、UVAは活性酸素を発生させ、その結果としてDNAを間接的に損傷します。
メラニン色素は特にUVBを防御する働きが強いため、脱色によってメラニン色素が破壊されると皮膚がんを発症する危険性が増すのです。
白人のほうが黒人に比べ皮膚がん(メラノーマ)が多いのは、このためです。
アメリカでの統計では、白人がメラノーマに罹る確率は黒人の約25倍とされています。
脱色せずに白髪を染める4つの方法
ここまでで、黒髪を脱色して白髪に染めることが髪と頭皮にとってマイナスにしかならないことがおわかりいただけたと思います。
さらに、黒髪をブリーチしても伸びてくる地毛は黒いのですから、白髪を染めるのも黒髪をブリーチするのも手間は全く同じです。
それなら、ブリーチ毛にするより髪と頭皮を傷めにくい方法で白髪を染めたほうが得策といえます。
ここでは、髪と頭皮を傷めずに白髪を染める4つの製品と、そのメリット・デメリットについてご紹介します。
【ヘアマニキュア】メリット・デメリット・注意点
ヘアマニキュアは、通常のヘアカラー剤のような脱色はせず、主に髪の表面を染料でコーティングするタイプのカラーリング剤です。
使用する染料はタール色素(酸性染料)で、昔はコールタールから合成されていたためにこの名がありますが、現在はほとんど石油から作られています。
<メリット>
・髪への吸着力が比較的強いので、3週間程度色持ちする
・コーティング(マニキュア)されるので、ハリやコシ、ツヤが出る
・色が比較的鮮やかに出る
<デメリット>
・脱色作用は全くないので、黒髪を明るくできない
・頭皮につかないようにするため、白髪がすぐ目立ちやすい
・カラーチェンジしにくい
・旧表示指定成分であり、若干刺激がある
<注意点>
髪をコーティングするという特徴が、髪のハリやコシが出やすいというメリットにも、次の染料の薬剤が浸透するのを邪魔し、カラーチェンジが難しいというデメリットにもなります。
根元から1センチ程度離して塗らないといけないので、白髪が伸びるとすぐ目立ってしまうところが、白髪を隠したい人には最大のデメリットでしょう。
また、タール色素の中には発がん性が疑われているものもあるので、極力頭皮につかないよう慎重に塗布することが必要です。
なお、美容院では「酸性カラー」という名称で施術を行なっているところが多くあります。
根元ギリギリまで塗ってくれるので、ホームカラーするより白髪が目立ちにくくなります。
しかし、「弱酸性カラー」はアルカリ剤は使用しないものの、酸化染毛剤と過酸化水素(ブリーチ剤)が配合されていることが多いです。
そのため、頭皮への刺激は避けられない上に、アルカリ剤を使用しないためキューティクルが開かず、従ってブリーチ力が弱く、発色もあまり良くありません。
【お歯黒式毛染め】メリット・デメリット・注意点
鉄イオンと多価フェノールで黒い色素を作り、それをカラー剤として使用する毛染め剤です。
酸化染毛剤を使用していないので、ジアミン系やフェノール系の染毛剤が合わない人でも安心して使用できます。
過酸化水素が配合されていないので、脱色作用はありません。
現在、シュワルツコフヘンケルのマロンマインドカラーが市販されています。
<メリット>
・2剤式白髪染めにアレルギーがある人でも使用できる
・髪と頭皮にダメージがない
<デメリット>
・時間がかかる
・色がかなり黒っぽく染まり、バリエーションが少ない
・段々髪がごわついてくる
・この毛染め剤の後でジアミン系ヘアカラーやブリーチ剤を使用すると、髪や頭皮が傷む
<注意点>
どの色を選んでもかなり黒っぽく染まるため、自然な感じはありません。
また、2剤式ですがまず1剤だけを塗って20分ほど置き、その後2剤を塗布する必要があるため、時間がかかります。
しかし一度の使用でしっかり染まること、髪はごわついてもぺちゃんこにはならないため、特に高齢の方に人気です。
【ヘナ】メリット・デメリット・注意点
インドなどで古くから使用されているヘナという植物の葉を粉末にしたものです。
髪のタンパク質内に色が定着していくため、使用を重ねるごとに色がしっかり入ります。
脱色作用はありません。
<メリット>
・トリートメント効果が高い
・自然な染まり具合で、白髪との境が目立ちにくい
・頭皮や髪の汚れを吸着する
・使うごとに色がしっかり入り、色持ちも良くなっていく
<デメリット>
・ヘナやインディゴにアレルギー反応が出る場合がある
・色の変化がつけづらい
・髪が傷んでいると、きしむことがある
・時間がかかる
<注意点>
メーカーによっても違いますが、染めるのに30分~1時間以上かかるものが多いようです。
また、ヘナやインディゴにアレルギーを起こす場合があるため、必ずパッチテストが必要です。
なお、市販されているものの中には酸化染毛剤が混ざっているものもあるので、信頼のおけるショップで購入するようにしましょう。
【カラートリートメント】メリット・デメリット・注意点
HC染料や塩基性染料を使用して染めるもので、合成染料の中では最も安全性が高いといわれています。
HC染料は分子が小さく、キューティクルを開くことなく隙間から入り込んで内側を染色します。
塩基性染料は分子が大きくプラスの電荷を持っており、髪のタンパク質が持つマイナスイオンと結合して髪の表面に吸着します。
脱色成分は入っていません。
<メリット>
・頭皮や顔についても落ちやすい
・トリートメント効果で髪がまとまりやすくなる
・シャンプー時に普通のトリートメントと同様に使用できるものが多い
・根元から染められる
<デメリット>
・一度ではしっかり染まらない
・脱色作用は全くないので、黒髪を明るくできない
<注意点>
カラートリートメントの染料はヘアマニキュアと比べて吸着力が劣るため、色持ちがあまり良くありません。
健康な髪や太い髪ほど染まりにくいため、人によっては連続して1週間程度染めないとしっかり色が入らないことがありますが、一度染まれば1週間以上色持ちします。
反対に、ダメージへアは1~2度できれいに染まるものの、色落ちも早くなります。
カラートリートメントは、トリートメントという名の通り髪を補修する働きがあり、継続使用するとハリやコシ、ツヤが出るようになります。
しかし、製品によっては刺激性の強い成分が配合されているものもあるので、しっかり確認することが大切です。
なお、カラートリートメントに似た作用をするものに、「カラーバター」があります。
これもカラーリングしながらトリートメントもしてくれるもので、若い女性にとても人気があります。
しかし、カラーバターは基本的にカラーを楽しむものなので、最初にブリーチが必要になります。
ブリーチしてなくなったメラニン色素の部分に入り込むため、地毛のままではほとんど染まらないのです。
ブリーチせずに白髪を目立たせなくしたい場合は、シルバー系カラーを使うと地毛の濃さが抑えられ、白髪が目立たなくなりますよ。
また、髪のダメージがひどく髪色が茶色っぽい色味になっている場合は、ブリーチせずにカラーバターだけを使用しても比較的良く染まります。
白髪にカラーを入れる最もおすすめな方法は
どのタイプも一長一短ですが、長く使用するものですから、安全性が高く手軽なものが一番です。
安全性と手軽さで選ぶならカラートリートメント!
カラートリートメントは、一度ではしっかり染まりにくいことと、色落ちが早いことがデメリットです。
しかし一度しっかり染まれば、後はシャンプー後のトリートメントとして1週間に1~2回の使用で色を保つことができますから、手軽です。
染料はHC染料と塩基性染料が主で、合成染料の中では安全性が高いといわれるものです。
ヘナを除き、天然色素だけで色を定着させることはできないので、できるだけ安全性の高い合成染料を使用したカラートリートメントが一番安全です。
もちろんアレルギーや接触皮膚炎を起こす危険性が全くないとはいえませんが、それはヘナも同様です。
しかもヘナの場合、製造国のインドですでに酸化染毛剤を混ぜているものも多く、見極めが難しいという問題があるのです。
カラートリートメントの場合、染料以外に配合されている成分は髪や頭皮の状態を良くするものが多いのもメリットです。
しかもできるだけ刺激にならないよう、シリコーンやパラベン、鉱物油、合成香料などを使用していないものも多いので、肌が弱い人でも使用することができます。
カラートリートメントはなかなか染まらないといわれていますが、これは髪質との相性によってかなり差があります。
各製品の品質の違いもありますが、それ以上に配合成分と髪質や状態が合うか合わないかによって、染め上がりがかなり違ってしまうのです。
口コミなども参考に、色々試してみることをお勧めします。
カラートリートメントは、髪や頭皮にやさしい染料を使いますが、この染料の粒度がとても重要で、粒度が荒すぎるとキューティクルの隙間に入れませんし、逆に細かすぎると髪の隙間に定着できずに流れ落ちてしまいます。最近では定着力や染まりを高めるための技術も上がってきており満足度の高い商品も増えています。
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